仙台地方裁判所 昭和21年(ワ)25号・昭21年(ワ)36号 判決
被告は原告に対し別紙第一目録記載の建物につき、所有権移轉登記手続を爲すべし。
被告は宮城縣遠出郡南郷村二郷字高玉一号二番の一伊藤精に対し別紙第一目録記載の宅地及び建物につき、所有権移轉登記手続を爲すべし。
反訴原告の請求は、これを棄却する。
訴訟費用は全部被告(反訴原告)の負担とする。
二、事 実
原告(反訴被告、以下原告と称する。)訴訟代理人は本訴につき主文第一、二項と同旨及び訴訟費用は被告(反訴原告、以下被告と称する。)の負担とするとの判決を、反訴につき主文第三項と同旨の判決を求め、本訴請求の原因として別紙第一、二目録<省略>記載の宅地及び建物はいずれも元被告の所有であつたが、右第一目録記載の建物は原告において昭和十八年十二月被告から買受け、右第一目録記載の宅地及び建物は訴外伊藤精において昭和十九年六月被告から買受け、次いで原告において昭和二十年六月伊藤からこれを買受けた。然るに被告は右賣買による所有権移轉の登記をしないから、右第一目録記載の建物については原告名義に、第二目録記載の宅地及び建物については伊藤に代位して同人名義に所有権移轉の登記手続を求める爲本訴請求に及ぶと述べ、被告の主張を否認し反訴に対する答辯として、反訴原告主張事実中本訴請求原因において爲した陳述に符合する部分は之を認めるけれどもその他は否認すると述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は本訴につき原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を、反訴につき原告は別紙第一目録記載の建物を取毀し、これを收去すべし訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、本訴に対する答辯として、原告主張の事実中別紙第一、二目録記載の宅地及び建物かいずれも元被告の所有であつて、被告が第一目録記載の建物を原告に賣渡したことは認めるただし、賣買の日時は昭和十七年十二月である。第二目録記載の宅地及び建物を訴外伊藤精に賣渡したことはなく、伊藤がこれを原告に賣渡したことは知らない。
(一)第一目録記載の建物について
前記賣買契約の際これと同時に、被告と原告との間に、被告は昭和十八年四月二十日を經過した後原告の要求次第何時でも右建物から立退き、原告は被告の立退き後遲滞なく之を取毀して收去し、その敷地を被告に明渡すべきことのとりきめをした。そこで原告は昭和二十年六月中旬被告に立退を要求したので、被告は右約定に從い同月十八日右建物から立退き、原告に明渡したから原告は速かにこれを取毀して、收去しなければならない。從つて前記賣買は、動産を以つてその対象としたと見るべきであるから、これにつき所有権移轉の登記手続をする必要がない。
(二)第二目録記載の宅地及び建物について
被告は昭和十九年六月二十日右伊藤から金貳千円と金千五百円の二ロの金円をいずれも利息年一割二分、辨済期日昭和二十年六月二十日と定めて借受け、右二ロの債務の支拂を確保する爲伊藤に対し、前者については右目録記載の宅地上に抵当権を設定し、かつ賣買名義を以つてこれを讓渡し、後者については右目録記載の家屋を賣買名義を以つて讓渡したものであつて、更に昭和二十年六月二十日に至り同月二十五日迄辨済を猶豫して貰い被告は同月二十四日伊藤に右元利金を提供した、以上の通りであるから原告の主張は理由がない。仮りに右被告の主張が理由がないとしても原告は伊藤から直接前記不動産を買受けたものではなく、先づ訴外櫻井庄之進において伊藤から買受け、次いで原告は櫻井からこれを買受けたものであるから、原告は伊藤に対し直接登記請求権を有せず、從つて伊藤の被告に対する登記請求権を代位して行使することはできない、又別紙第一、二目録記載の建物は全部未登記である。よつて原告の本訴請求はすべて理由がないと述べ、反訴請求の原因として原告は前に被告が本訴に対する答辯において、述べた通り右第一目録記載の建物は、原告の請求によつて被告が右建物を退去したときは遲滞なく之を取毀して收去すべきことを約定し、被告は既に原告の請求に應じて右建物を退去したから、被告は原告に対しその收去を求める爲反訴請求に及ぶと述べた。<立証省略>
三、理 由
被告がその所有にかかる別紙第一目録記載の建物を原告に賣渡したことは当事者間に爭がない。
尤も取毀の目的を以て建物が賣買され且つ買主が敷地の使用権を有しないときは該建物は法律上建物として使用することができず買主は單に其の建築材料に付いて所有権を有するに過ぎないから其物は既に土地の定着物たる性質を失い不動産でなくなつたといわなければならず、從つて買主はその建物について所有権移轉登記請求権を有しないことは被告の主張する通りである。
而して証人伊藤精、上田三保之助の各証言、原告及び被告の各本人尋問の結果によれば原告は右賣買と同時に右建物を取毀して他に移轉し被告に対しその敷地を明渡す旨約したこと、右取毀の時期は当時原告は右家屋の移轉先について予定地がなかつたので、昭和十九年四月二十日を過ぎて後移轉先が見付かつたときに一週間の予告を附して被告に対し右建物の明渡を求め、被告が之に應じて右建物を明渡したときは遲滞なく之を取毀して他に移轉すると約定していたこと、原告は昭和二十年六月中旬被告に対し、右建物の明渡を請求し、被告は同月十八日にその明渡をしたことを認めることができる。
しかしながら後に説明する通り、原告はその後右建物の敷地の所有権を取得し、之を敷地として使用することができるようになり、他面被告は原告に対し右建物の收去を求めることができない事情となつたのであるから原告が右建物を現状のまゝ右敷地上に所有しようとするのである以上右建物の現在の所有者である原告は所有権に基き前所有者である被告に対し右建物について賣買による所有権移轉の登記手続を求める權利を有すると認めるべきである。
被告が元別紙第二目録記載の宅地及び建物を所有していたことは当事者間に爭がなく、成立に爭がなく被告においてその記載の建物が別紙第二目録記載の建物と同一であることを認める甲第二號証、成立に爭がなく被告においてその記載の土地が別紙第二目録記載の宅地と同一であることを認める甲第三號證、成立に爭がない甲第四號証、証人伊藤精、上田三保之助、櫻井庄之進の各証言、被告本人尋問の結果を綜合すれば被告は訴外木村嘉平の周旋で昭和十九年六月二十日訴外伊藤精から利息年一割二分、辨済期日昭和二十年六月二十日と定めて金參千五百円を借受け、その担保のため内金千五百円については別紙第二目録記載の建物を金千五百円で伊藤に賣渡し、同時に被告において右辨済期日迄に金千五百円と之に対する利息を支拂えば之を買戻すことができると約定し、内金貳千圓については別紙第二目録記載の宅地に抵当権を設定し、且つその上若し右辨済期日迄に被告が金貳千円とその利息の支拂をしなかつたときは抵当権の実行をまたないで、右宅地の所有権は伊藤に移轉し、伊藤は自己名義に所有権移轉登記を爲しうる様被告名義の賣渡証書を作成して原告に交付したこと、その時右証書の日附は辨済期日を過ぎれば直ちに登記ができるように昭和二十年六月二十日とする約束だつたのに被告は伊藤の諒解なく同年十二月二十日附の証書を作成して來たので伊藤は之を訂正せよと要求したのに被告が應じないでそのままになつて了つたこと、昭和十九年六月二十四日伊藤は被告に内金百円を交付し、同月二十六日抵当権設定登記と同時に貸金全額の内から金百円を控除し残金参千四百円を交付したことを認めることができる。
被告は昭和二十年六月二十日右債務の支拂を同月二十五日迄猶豫して貰つたと主張する。而して証人伊藤精、上田三保之助の各証言被告本人尋問の結果によれば、昭和二十年六月二十日被告は伊藤に対し金壱千円を提供して残債務の辨済を五日間丈猶豫するように申入れたことは之を認めうるけれども、更に進んで伊藤が右辨済期を被告の主張する通り延期したことを承諾したとの點に関する証人上田三保之助の証言及び被告本人尋問の結果は之を信用することができないし、他に之を認めるに足る証拠がない。
しかして証人伊藤精(下の認定と異る部分を除く)櫻井庄之進の各証言及び原告本人尋問の結果によれは原告は別紙第二目録記載の宅地及び建物が、(被告が伊藤に借入金の支拂をしないため、確定的に伊藤の所有となり)伊藤の自由に処分することができるようになつたときいて昭和二十一年六月二十一日頃訴外櫻井庄之進と共に伊藤に対し右宅地及び建物の買入を交渉し、伊藤はその翌日訴外上田三保之助を介し被告にその旨を通知し買戻の機会を與えたが之に対し被告から何等の應答がなかつたので同日午後遂に右櫻井の仲介で原告に対し、右宅地及び建物を賣却することゝし代金として櫻井の手を經て原告の持つて來た金参千五百円と之に対する前記、貸借上の利息に相当する金額の支拂を受け、伊藤から同人と被告との間の賣買契約証書の交付を受けて取引を済せたことを認めることができ、証人伊藤精の証言中右認定に抵触する部分は信用できないし、他に右認定をくつがえすに足る証拠がない。よつて被告は伊藤に、伊藤は原告に順次その所有権移轉の登記を爲すべきであるから、原告は被告に対し、伊藤に代位して同人名義に右所有権移轉の登記を求めることができる。
被告は本件建物は全部未登記であると主張する。しかしながら未登記の建物を賣買した場合にも買主は賣買に因る所有権の取得登記をしなければその取得を第三者に対抗することができないから賣主は買主に対し右登記を爲すのに必要な手続をする義務がある、從つて賣主は買主がその取得登記を爲す前提として先づ自ら所有権の登記を爲し、買主のためその取得登記をするのに支障がないようにしなければならない。もし賣主が任意に之をしなければ買主は賣主に代位してすることができる、從つて被告は右建物が未登記だからといつて(成立に爭がない甲第二号証によれば本件建物については昭和二十一年三月二十二日仙台地方裁判所の仮処分登記の嘱託により被告のために保存登記が爲されたことを認めることができる)その登記義務を脱れることはできない。而してこのことは未登記不動産の取得者が保存登記をすることによつて其の取得を第三者に対抗することができるからといつてその解釋を異にしなければならないことにはならない。
以上の通りであつて原告の本訴請求はすべて理由があるから、これを認容すべきである。
次に被告の反訴請求について按ずるに原告が被告に対し右第一目録記載の建物を取毀して他に移轉し、その敷地を明渡すことを約し昭和二十年六月十八日その履行期が到來したことは前に本訴に関し認定した通りである。しかしながら右契約の趣旨は土地に対する関係をはなれて單に建物を取毀して他に移轉することばかりにあるのではなくて、同時に右宅地を明渡すこともその内容としておるのであるから被告の側からいえば建物を取毀して他に移轉させることは寧ろその手段たる性質をもつに過ぎず、その目的は右宅地の明渡にあると解すべきである。從つて、かような契約は右建物を取毀して他に移轉し、右宅地を被告に明渡すことがその結果として被告に右宅地に対する利用を可能にさせ、その他何等かの利益を齎らすような場合に限つてその趣旨を全うすることができるのであつて原告が昭和二十年六月二十二日に右宅地を取得した後被告がまだ右宅地に対して何等かの利益をもつているということについては主張も立證もないのであるから、本件においては原告が右建物を取毀して之を他に移轉してもそれは被告にとつて些かの利益も齎さない無意味なことがらであるに反し原告は之を履行することによつて重大な損害を被ると認めるより外はない。かような事情の下において尚被告が敢えて原告に対し前記建物を取毀して他に移轉しその敷地の明渡を求めることは権利の濫用に属し許されないと解すべきである。從つて被告の反訴請求は理由がなく、これを棄却すべきであるから訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 松尾巖 伊藤正彦 片桐英才)